トピック(貝類)

沖縄には“ちんなん”(陸の貝)の固有種がたくさん棲んでいるのをご存じですか?

貝類にはサザエやハマグリのような海の貝、タニシやシジミのような川や池の貝(淡水貝類)が、よく知られています。しかし、沖縄では方言で“ちんなん”と呼ばれ、親しまれてきましたカタツムリが、貝類としては意外と認識されていないと思います。ちんなん(陸の貝)は蓋を持つタニシに近い仲間と、蓋がないカタツムリ類とに大別されます。これらの陸の貝は海を自力で泳いで渡っていくことができませんので、沖縄のような離島の多い地域では、それぞれの島で、長期間隔離され、その島固有のカタツムリとして独自の進化を遂げました。近年の新しい研究手法である分子系統解析によって、第2版では全く触れられていない新知見が、第3版には多く掲載されており、とりわけ陸の貝ではこれまで一括りにされていた種類が、それぞれの島で別種として紹介されている他、類縁関係についても大きく見直されています。

  • アマノヤマタカマイマイ(沖縄島南部)

    アマノヤマタカマイマイ(沖縄島南部)

  • イヘヤヤマタカマイマイ(伊平屋島)

    イヘヤヤマタカマイマイ(伊平屋島)

  • ウラキヤマタカマイマイ(宮古島)

    ウラキヤマタカマイマイ(宮古島)

  • オオアガリマイマイ(南大東島)

    オオアガリマイマイ(南大東島)

例えばタニシに近い仲間のヤマタニシ類(方言ふたぐゎちんなん)では、沖縄島のオキナワヤマタニシにもいくつかの系統があり、その一つは遠く離れた宮古島のミヤコヤマタニシとほぼ同種でしたが、一方、伊平屋・伊是名島には別種のヤマタニシ類が2種類も生息していることが判りました。沖縄島では最もポピュラーなシュリマイマイ(方言はぶちんなん)でさえ、元々ヤンバルマイマイと呼ばれていた種がシュリマイマイと同種で、同じシュリマイマイと思われていた種類の中に2種類の別種が確認され、再整理されました。さらには渡名喜島や慶良間諸島に生息するシュリマイマイ類がこれらとは明らかな別種と判明し、トナキマイマイとして新たに紹介されています。このように研究の進展によって、元々、別種と思われていたものが同種に、また同種と思われていたものが別種となることにより、その種の保全上の重要度が見直され、絶滅のおそれの高いランクのⅠ類やこれに次いで高いⅡ類と、比較的リスクの小さい準絶滅危惧を上下させる事例が少なくありません。このように絶滅のおそれに関するランクは研究の進展により、定期的に見直す必要があります。もちろん、近年の様々な自然破壊や移入種等の食害等によって、大きく個体数を減少させている種類も多く、絶滅のおそれのあるランクは総じて上昇傾向にあります。中でも今回の見直しでは、沖縄島および周辺離島の一部と宮古島に生息するオキナワヤマタカマイマイ類や大東諸島のアツマイマイ類の減少がきわめて深刻であることが判りました。その結果、2017年1月には伊平屋島の固有種イヘヤヤマタカマイマイ、沖縄島南部の固有種アマノヤマタカマイマイ、宮古島の固有種ウラキヤマタカマイマイの3種が、2018年1月には南大東島の固有種オオアガリマイマイ、北大東島の固有種ヘソアキアツマイマイが相次いで、採取や殺傷が法律で禁じられる国の国内希少種に指定されたほどです。

沖縄の島々において、多数の固有の陸の貝へと進化した過程や繋がりなどの謎を解き明かすことは、いま世界自然遺産を目指している私たち沖縄の地史や生物相の成立を考える上で、とても重要な情報をもたらすと考えられています。これからも、県民ぐるみで、それぞれの島々で静かに暮らしている、可愛い“ちんなん”たちを見守っていただければと願っています。(2018年4月原稿提出)

沖縄県海洋深層水研究所 所長 久保 弘文

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